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鑑賞した映画の紹介や感想です

映画「スリー・ビルボード」あらすじ感想ネタバレ。怒りの矛先が向かう場所(原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)

スリー・ビルボード

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2018年公開 

監督 マーティン・マクドナー

キャスト フランシス・マクドーマンド

     ウディ・ハレルソン

     サム・ロックウェル

     ルーカス・ヘッジズ

     アビー・コーニッシュ

     ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

     サマラ・ウィーヴィング

 

 

 今日はファーストデー1000円ということで初日に行ってきました。

劇場はそこそこ、ファーストデーの影響でしょうかね。

映画が序盤ブラックジョークが飛び交うので、館内も笑い声有り、失笑ありでした。

しかし中盤からガラッと雰囲気が変わって重い空気が立ち込める内容でした。

「怒りは怒りを来す」

 ミルドレッドの怒りはどこへ向かうのか?

そして犯人は捕まるのか?

まずはあらすじです。

あらすじ

アメリカミズーリ州のエビング。

「迷ったやつかボンクラしか通らない」さびれた一本の道路に立ち並ぶ3枚の立て看板にある日突然メッセージが現れる

「レイプされて死亡」

「犯人逮捕はまだ?」

「なぜ?ウィロビー署長」

7ヶ月前に娘を殺されたミルドレッドが一向に進展しない捜査に腹を立て

エビング広告会社のレッドと1年契約を交わして出した広告だった。

その後もニュース番組のインタビューを受けるなどし、波紋は次第に広がってゆく。

この作品はその後の母親の戦いの顛末と、警察署長ウィロビー、その部下ディクソンを巻き込み思わぬ結末を迎える。

果たしてあなたはこの結果をどう受け止める?

 

 

 

 

 

ここからネタバレ

 

 

 

 

キャスト

ミルドレッド・ヘイズフランシス・マクドーマンド

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お土産屋さんで働く中年の母親。

7ヶ月前に娘を殺され、一向に進まない警察の捜査と、風化しつつある現実に憤り

エビング広告社のレッドに依頼し、3つの立て看板に広告を載せる。

それがエビングの町やマスメディアにも取り上げられ警察や住民を巻き込む一大事件となる。

警察や住民やマスメディアに対して一歩も引かない

家族の為なら少女の股間すら蹴り上げる剛毅な性格。

登場シーンでかかる「Mildred Goes To War」が似合い過ぎてカッコイイ。

 

ビル・ウィロビー保安官ウディ・ハレルソン

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エビング警察署の保安官。妻と2人娘の父親。

今回、ミルドレッドに捜査怠慢を追求される立場だが実は証拠といえる様な物がほぼ無かったようである。

そして末期の膵臓ガンを患っており余命は残り数ヶ月。

 

 

ジェイソン・ディクソンサム・ロックウェル

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同じエビング署の警官。ウィルビー保安官を父親の様に慕う

自身はゲイで母親との関係は機能不全の中におり、その鬱憤からか

人種差別主義でキレやすく言動も不安定。

しかし一通の手紙を機に彼の人生は一変する。

 

レッドケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

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エビング広告社の経営者。

今回ミルドレッドの依頼を受け問題が起こるであろう広告を何故か載せる。

金の為か何も考えて無かったからなのか、

しかし警察に撤去を命じられても一歩も引かない態度は本人の中にもミルドレッドに対する思う所があったのだろう。

決して頭は良くないが優しい人物。その優しさが後半ディクソンを救う事になる。

 

ペネロープ(サマラ・ウィーヴィング)

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ビル(ミルドレッドの元旦那)の現妻。19歳。

空気読めない感じと頭が悪そうな会話で観客を失笑させる。

動物園で働いていたがようだが首になったようだ。

しかし「怒りは怒りを来す」の名言であのミルドレッドに変化をもたらす。

ミルドレッドにとっては意外な刺客だったことだろう。

 

霧の中に佇む看板

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霧の中に佇む3つの看板。1986年以降誰も掲載することのない広告。

ミルドレッドはこの看板にあるメッセージを載せる事を思いつく

 

3つのメッセージ

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メッセージはそれぞれ

「レイプされて死亡」

「犯人逮捕はまだ?」

「なぜ?ウィロビー署長」

ミルドレッドの警察署に対する怒りだった。

娘をレイプされ焼死体で発見された時の胸中は誰にも思い計ることは出来ない。

そしてこの怒りは周囲の人間の人生さえも変えてゆく。

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死んでからでは手遅れ

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看板に広告が掲載された翌日、警察署長のウィロビーは載せた張本人のミルドレッド宅に訪問する。

ウィロビーはこの事件は全く証拠がないとミルドレッドに訴えるが、ミルドレッドは

「あなたがこんな言い訳している間も、誰かがレイプされている」

と一歩も引かない。

それに対し、ウィロビーは意を決して

「自分は膵臓ガンの末期患者だ」と打ち明ける。

しかしミルドレッドはそんなことはお構いなしだった。

「そんな事は町中の人間が知っている」

「知っていて広告を出したのか?」

「あんたが死んでからじゃあ、遅いでしょ?」

その言葉に対しウィロビーは彼女は頑なで本気なのだと思い知る。

しかし彼は激昂することなどなく、彼女の思いを受け止め

帽子を丁寧に被り直しその場を去っていった。

 

進まない捜査

ウィロビーも焦っていた。証拠らしい証拠がほとんどないこの事件。

広告の看板の前で思い悩む。

それに対し部下のディクソンは軽口を叩きウィロビーの怒りを買うのだった。

そう、ウィロビーは怠慢な保安官などではなく生真面目で残りの余生を静かに暮らしたいだけの父親だったのだ。

人望のある彼の一面が垣間見える。

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孤立無援

町民から人望があるウィロビー署長。

そのウィロビーを慕う住民から、ミルドレッドは嫌がらせを受けるようになる。

時には神父が自宅までお仕掛け、ミルドレッドに看板を降ろせと説教をする。

しかしミルドレッドは、教会が組織ぐるみで隠蔽している性的虐待を例に挙げ

そんな教会の神父に言われる筋合いはないと言わんばかりに跳ね除ける。

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時には麻酔無しで歯を抜かれそうになり、逆に撃退するミルドレッド。

その歯科医の指に治療機でを空け

顔に水を掛け、平然とその場を去る。

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予想外の死

ウィロビーは余生を静かに暮らしたかった。

残された数ヶ月を娘2人と妻の4人で平穏に過ごしたかった。

しかし彼は突然命を断つ。拳銃でコメカミを撃ち抜き、馬小屋の近くに覆面をした彼の死体が転がる。

これを機にミルドレッドの未来に、更に重い空気が伸し掛かる。

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3通の手紙

ウィロビー署長は自殺前に3人に手紙を残していた。

妻のアンと、ミルドレッド、そして署内の部下のディクソンだ。

妻以外に当てた2通は「死んだウィロビーだ」から始まっていた。

妻には末期ガンの看病をさせ疲れさせたくない、迷惑をかける事無く良い思い出のまま死にたかった事、

そしてミルドレッドにはおまえを応援している事、犯人を逮捕出来なくてすまなかった事、

そしてこの自殺がミルドレッドの立場を悪くさせない様に看板広告費用の5000ドルを俺が出す事、

そして最後に「殺されるなよ」と書き残す。

これが自殺する人間の最期の言葉だと思うと、ウィロビーの人柄が偲ばれる。

ディクソンにはお前には刑事になれる才能があると励まし、それにはキレやすい彼に愛が必要だと説く。

父親の様に慕っていたディクソンは涙を流しそれを読むのだった。

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怒りの炎

ディクソンは既に警察署をクビになっていた。

ウィロビーが自殺した翌日、広告会社のレッドを窓から突き落とし重症を負わせたのだ。

それを新しく赴任してきた黒人署長に一部始終見られていた。

そして警察をクビになったディクソンは腹いせにあの3つの広告看板にも火を着けた。

ただでさえ赤い看板、燃え盛る炎で更に激しく赤く染まりゆく。

たまたま気づいたミルドレッドは消火活動するも時既に遅く

看板は見るも無残に焼け落ちてしまった。

それに憤慨するミルドレッド。

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彼女は犯人はディクソンだと確信し、その復讐に警察署に火を着ける。

警察署の真ん前にある、あのレッドが窓から突き落とされた広告会社に忍び込み

その割れた窓から警察署へ火炎瓶を何本も投げ込み、建物は怒りの焔となって燃え盛っていた。

 

そしてウィロビーからの手紙を読んでいて、たまたま警察署内にいたディクソンは炎に気付かず、顔に火傷を負ってしまう。

それを窓から目撃するミルドレッド。

しかし彼女はその後も犯行を認めようとはせず、ディクソンに対して謝る事などしなかった。

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優しい相部屋の患者

火傷を負ったディクソンは治療を受け入院する事となった。

そしてその相部屋の患者はなんと自分が窓から突き落とした広告会社のレッドだった。

レッドは顔を包帯でぐるぐる巻きにされたのがディクソンだと気付かないようだ。

彼はディクソンに対し凄く優しかった。

「大丈夫だよ」と励ますレッド。

ディクソンはそんなレッドに対して嘘を突き通せなかった。

自分はお前を窓から突き落とした張本人のディクソンだと告白する。

それを聞いたレッドは酷く混乱しつつも、彼にオレンジジュースを入れてあげ

刺したストローをわざわざ彼が飲みやすいように彼に向けてあげる程の人物だった。

この行為がディクソンを変えるキッカケとなる。

 

レイプ犯

病院を抜け出したディクソンはバーで酒を飲んでいた。飲めば痛みが増すだろう事は想像出来るが

飲まずには居られなかったのだろう。

しかしここである幸運が訪れる。

ディクソンが座った後ろの席で、一人の男が自分が犯したレイプ話を友人に打ち明けていたのだ。

元警察官の血が騒ぐ。

ディクソンはその男に近づき、顔を爪で引っかきDNAを取る事に成功する。

しかしその男にボコボコに殴られ見るも無残な顔に。

そうまでしてディクソンを突き動かした物はなんだったのだろう?

ウィロビーの手紙とレッドに受けた優しさで、自分もまっとうな人間になりたいと思ったのだろうか?

そして殴ったこの男があのレイプ犯なのか?

物語はクライマックスへ向け一気に走り出す。

 

怒りの矛先と正義感

ミルドレッドとディクソンの怒りの矛先はどこへ向かえば良かったのか?

レイプ犯かと思われた男のDNAはミルドレッドの娘アニーから採取されたものとは一致しなかった。

落胆するディクソンとミルドレッド。いや、観客でさえもそうだろう。

しかしその予想を遥か越えて、ミルドレッドとディクソンはそのレイプ話をした男がいる州へ車を走らせる。

娘のレイプ殺人と無関係なのになぜ?

正義感からの行動?

それとも怒りの矛先がただ彼に向いただけなのか?

 

そんな観客の困惑をよそにミルドレッドは言う

「あんたに話したい事があるの」

「なんだよ?」

「あの警察署に火を着けたのは私よ」

それを聞いたディクソンは吹き出す

「そんな事をするのはあんたぐらいしかいないだろ」

 そう彼は最初から放火犯は彼女だと知っていたのだ。

人種差別や暴力が当たり前だった彼が、人を許す人間に変わっていた瞬間だった。

「あいつを殺すのか?」

「それは道々考えればいいわ」

 

彼女達が道々決めるのは人生と物語の結末。

殺せば今度は追われる身になり、

殺した所で復讐を遂げられるわけでもない。

ましてや何もしなかったとしても彼女らの人生が何か変わるわけでもない。

あの看板も最初のシーンの様にいつかは朽ち果てるのだろう。

持て余した虚しすぎる感情を、ミルドレッドは車を走らせながら消化して行く。

しかし、その後彼女らがどんな行動を取ったのか、誰にも分からないままそこで物語は終わる。

 

感想

面白かったです。最初こそブラックジョークで笑ってられるんですが

ウィロビーが自殺した時から一気に重い空気に変わり

最後の結末まで見入ってました。

二人は最後どうなったんですかね?

自分は多分殺さなかったんじゃないかと思います。

男の自宅に押しかけ、ミルドレッドが思いっ切りあの金的キックをかましたあと

汚い捨て台詞を吐いてその場を去る様な気がするんですね。

ディクソンも銃で脅して真相を吐かせる手助けをするだけなんじゃないかな。

「怒りは怒りを来す」と気付いたミルドレッドは殺さないだろうと思うんです。

そしてディクソンも、ウィロビー署長の手紙やレッドから許して貰えた事で

彼も変わっている様な気がして、最悪な結末は迎えないんじゃないかと思うんです。

突拍子もない結末でしたがあなたはどう思いますか?

 

一番胸がスッとしたのは教会の神父がミルドレッドの自宅に現れて

ミルドレッドがその神父に対して痛烈な批判をするシーンでした。

カトリック教会の未成年虐待の組織的隠蔽は過去に映画にもなっているのですが、

聞いていて胸がスッとしました。

「スポットライト」でボストン・グローブ社が暴いた事なんですね。

過去にこの映画の記事も書きました。

興味あったら読んでみて下さい。

 

 

eiga-blog.hatenablog.com

 

そしてこの映画は好きな、そして名台詞がほんと多いです。

ミルドレッド編

末期ガンを告白したウィロビーに対する「死んでからじゃ遅いでしょ?」

 

看板が燃え落ちて事態は収束するだろうと報道するキャスターにミルドレッドが言い放つ台詞

「始まりはこれからだよこのクソビッチ

ウィロビー

遺書の出だし「死んだウィロビーだ」

ミルドレッドに対する手紙の最後の「殺されるなよ」

ディクソン

ミルドレッドが警察署を放火して怪我を負わせたのは自分だと告白するシーンのディクソンの台詞

「そんな事をするのはあんたぐらいしかいないだろ」

 

ブラック過ぎて笑ってしまう台詞が多くて、他にもあった気がするけど思い出せません。

でもそんな台詞がポンポン出る映画は貴重ですよね。

 

映画のスコアも哀しい曲が多いけど良いサントラだと思いました。

特に最初の「Mildred Goes To War」と

曲調が変化した「Billbord On Fire」

そして娘アニーへの哀しい思いを綴ったスコア「My Dear Anne」が好きです。

 

解説では書きませんでしたが、ミルドレッドは娘アニーと酷い別れ方をしているんですね。

アニーがレイプされ殺される直前に、自宅で娘と車を貸す貸さないの口論になって

「レイプされても知らないから!」という娘に対して

「おまえなんかレイプされればいい!」

という会話が最後なんです。

そして徒歩で目的地に向かった娘は本当にレイプされ殺されてしまう。

何とも言いようがない、悲しすぎるバックグラウンドです。

ミルドレッドはそんな自分に対する自責の念と娘の恨みを晴らすべく、そして警察署に対する苛立ちから

今回の行動にでる訳ですが、それでも最後まで事件は解決すること無く終わりを迎えます。

この映画は答えが用意されていないので結末がスッキリする作りにはなってないんですね。

そこをどう捉えてどう感じるか。

まだ「シェイプ・オブ・ウォーター」はまだ日本では公開されてませんが

アカデミー賞作品賞を取るなら「スリー・ビルボード」なような気がします。

昨年のムーン・ライトもLGBTというテーマで重い映画でした。

人種差別が未だに蔓延るミズーリ州

というかアメリカは銃や人種差別問題からは永遠に逃れられない国でしょう。

 

こういう映画や、ムーンライトのような映画が作られて

認められるアメリカ社会の懐の広さ

しかしその一方で先日のグラミー賞でも鎮魂のパフォーマンスが行われていましたが、銃による一方的なテロが行われてしまう闇の深さ

怒りの矛先は突如罪のない人々を巻き込みます。

そういう根深い問題も抱えている社会。

そんな社会だからこそ、きっとこれからもタブーを題材とした映画が沢山作られて行くんだと思います。