映画「グローリー」心を揺さぶる戦争映画。アメリカ南北戦争史上、最も困難な道を歩んだ陸軍歩兵連隊(原題:Glory)
グローリー
1989年公開
監督 エドワード・ズウィック「ラスト・サムライ」「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」
キャスト マシュー・ブロデリック
ケイリー・エルウィス
ジミー・ケネディ
アンドレ・ブラウアー
ジョン・フィン
アメリカ南北戦争時代。
北部の奴隷解放賛成派と南部の反対派が争った時代。
これは現在もボストン・コモン(アメリカ最古の都市公園)に建てられている「第54マサチューセッツ歩兵連隊」の栄光を讃えた記念碑です。
そしてこの映画はアメリカ陸軍初の志願兵による黒人だけで編成された陸軍歩兵連隊(第54連隊)を扱った作品です。
Gloryとは栄光とか栄誉、名誉という意味だそうです。ついこの前、WOWOWで放映されていて数十年ぶりぐらいかな。久々に観ました。
しかし当時抱いた印象とはだいぶ違う感想もあって
当時は鬼軍曹が嫌なやつだなとしか思ってなかったのですが、実はそうではなかったり、指揮官であるロバート・グルード・ショーの部隊に対する思いとか。
そして改めて思ったのは戦争を扱った作品の中では(1980年代以降)5本の指に入る作品ではないのかと思ったので紹介したいと思いました。
1998年に公開された誰もが知る作品「プライベート・ライアン」(原題:Saving Private Ryan)
それ以降、戦争映画の表現方法は良い意味で一変し
ゴア表現がキツくよりリアル感を持ち、しかしそれを代償に老若男女誰もが観るジャンルではなくなりました。
自分は寧ろSaving Private Ryan以降のゴア路線の戦争映画が好きです。バンド・オブ・ブラザースに始まる第二次世界大戦を扱った海外ドラマも何度も見返す程好き。
しかしそういう表現を使わずとも、深く引き込むこの作品を紹介したいと改めて思いました。
鑑賞し終わったあとどう感じるか。この先は全てのネタバレです。今まで観たことが無いのであればこの先は見ずに鑑賞した方が良いのではないかなと、そんな風に思います。
ストーリー
1862年、「アンティータムの戦い」で戦闘中に力尽きてしまった北軍に所属するショー大尉(マシュー・ブロデリック)
意識を失った彼は黒人のジョン・ローリンズ(モーガン・フリーマン)に「大丈夫か?」と起こされ意識を取り戻す。その戦いで北軍は戦闘では勝利したものの多くの兵を失い、ショー自身も傷心し失意の中故郷に戻る。
故郷の自宅では和やかなパーティーが開かれておりそこで家族や友人と再開するショー。
しかしパーティーに招待されていた知事から「黒人だけの歩兵連隊を組織する事を軍に要請した」と聞かされる。
そしてその部隊の指揮を是非ショーに任せたいという知事からの要望だった。
ショーは急な話に戸惑い一度はためらうものの、友人のフォーブスを誘い黒人の友人トーマスも最初の志願兵となり部隊の指揮官として参加する決意をする。
そしてワグナー要塞攻略戦に至るまで、ショーが母親に綴った「200通を越える手紙」の内容を元に、彼等とその"黒人歩兵連隊"が辿る困難な道を描く。
キャスト
ロバート・グルード・ショー大佐(マシュー・ブロデリック)
北軍第54黒人歩兵連隊の連隊長。裕福な家庭の出身で親のコネもあり「アンティータムの戦い」の後に大佐に昇進し部隊を率いる。父親は奴隷解放運動に参加しており、自身も幼少期から黒人と接触が多い為か人種的偏見は持ち合わせていない。
お坊ちゃんに似合わず勇敢な指揮官でもある。
キャボット・フォーブス少佐(ケイリー・エルウィス)
ショー大佐とは親友。ショーに誘われ快諾し第54連隊に参加する。
しかしショーの厳しいやり方に徐々に反目していってしまう。
マイケル曹長(ジョン・フィン)
部隊の訓練教官。まさに鬼曹長。その"シゴキ"は苛烈を極める。黒人兵士達から反感を買うが、しかしその厳しさは兵士を思うが故の行動だった。
ジョン・ローリンズ曹長(モーガン・フリーマン)
農民出身。アンティータムの戦いの後ショーと出会う。そして自身も54連隊に志願し、後に曹長になり部隊を支える。寡黙だが仲間思いで頼れる、部隊の父親的存在。
トリップ(デンゼル・ワシントン)
減らず口を叩くばかりの兵士。12歳で農場から逃げその後の事は語らない。しかし背中に無数の鞭打ちの傷跡が残っており奴隷であったことが伺える。当然白人や白人と仲良くする黒人に対して反感を持つ。彼の行動や発言は虐げられた者達を代表したものなのかもしれない。しかしその胸の内は想像とは違い熱い思いだった。
トーマス・シアーレス(アンドレ・ブラウアー)
裕福な坊っちゃん。博識がありショー大佐やフォーブス少佐とは幼馴染み。父親の逃亡奴隷救済教会の仕事を手伝っている。第54黒人歩兵連隊が結成されると最初に参加を志願する。しかし訓練の厳しさについて行けず部隊長であるショーに助けを求めてしまう。
ジュピター・シャーツ(ジミー・ケネディ)
貧しい農民の出身からか、兵士になる事に憧れを持つ。射撃の名手でもある。
第54マサチューセッツ歩兵連隊
1862年。マサチューセッツでついに黒人だけの志願兵による歩兵連隊が結成される。農民、奴隷出身者、逃亡者、自由市民出身の者。参加者は様々だった。
「南軍め!」「実戦はいつなのか?」など集まった黒人達は皆目を輝かせ、息を巻く。
11月27日。レッドビル野営地に移動し、実戦の日までそこで部隊の訓練が行われる事になる。
野営地にいる白人の軍人からは「見ろ黒人だぜ?」「豚じゃなくて残念だ。食えない」などとからかいの目で見られる。
しかしそんな事を気にする彼等ではなかった。
志願して参加した彼等の士気は高い。
そして彼等のもっぱらの関心は「いつ軍服が着れるのか?」「いつ銃を握れるのか?」「いつ実戦に参加できるのか??」
しかし黒人部隊が故にその願いが叶うのは当分先であり、この先厳しい試練が彼等を待ち受ける。
鬼曹長
結成から数日後、部隊に応援が来る。訓練教官マイケル曹長。
立派な髭を生やし強面でいかにも軍人教官らしい面構え
容赦なく罵声を浴びせ暴力も辞さない彼のやり方は黒人達から反感を買い、苛烈を極める。
しかし黒人たちは実戦の日を夢に見る事で命令を真面目に受け、従順に実行し白人に勝る速度でみるみる進歩する。
南軍からの脅し
日々訓練を続ける連隊にある日書簡が届く。
連隊宛にきたその書面の内容は敵である南軍の南部同盟議会からの声明文であり、その声明文をリンカーン大統領が部隊の兵士達に伝えろという内容。
ショーは豪雨の中早速広場に兵士達を集め、その宣言文の中身を伝えるのだった。
宣言文
・南軍に対して武器を取る全ての黒人は"即刻奴隷の身分に差し戻される"
・北軍の軍服を着用した黒人は"全て死刑に処す"
・黒人部隊の指揮をとった白人将校はすべて"奴隷の謀反を幇助したものとみなし同様に死刑に処す"
つまり北軍に参加する黒人やその指揮官への"脅し"だった。
南部から黒人が流出するのを抑える意味もあったのだろう。指揮官のショーやフォーブスも戸惑いを隠せない。
そして連隊長のショーは最後に兵士達はもちろん、配下の指揮官達にも"除隊を希望する者は明朝それを許可する"と伝えるのだった。
トリップ(デンゼル・ワシントン)は兵士になることに憧れを抱くシャーツの耳元で囁く
「それでも軍服を着たいか?」
屈しない兵士達
昨夜の雨が止み朝日が注ぐ明くる日、指揮官のショーは部隊に残ったフォーブス少佐に尋ねる
「結局何人残った?」
しかしショーが広場で目にしたのは中隊長を始め、部隊の黒人全員の姿。
国の為、黒人の為、家族の為、兄弟の為、それぞれがそれぞれの理由で参加している。
直立し朝日を浴びて凛々しく輝き、彼等の強い決意と南軍の脅しに屈しない兵士達の姿だった。
ショーは呟く。
「神よ、感謝します。」
鬼曹長の思い
その日も連隊の過酷な訓練は続いていた。しかしある時、ショーの友人である黒人のトーマスが訓練中に疲労の限界を越え曹長の目の前でへたり込んでしまう。
そして鬼曹長の容赦ない罵声が飛ぶ
「おい!立て!まだ解散しておらんぞ!」
それでも立てない彼は「立て!」と叱責を受け蹴りを食らう。そのやり取りを見るに見かねたショーはついに曹長を呼びつける。
「曹長、君の職務熱心は認めるが訓練が厳しすぎるのでは?」「反論があるならしたまえ」
曹長はしばし間を起き答える。
「あの兵は友人で?」
「ああ、一緒に育った」
そして毅然とした態度で曹長は答える
「もっと成長が必要です」
その毅然とした軍人としての態度を見てショーは考えを改めた。
彼はいじめや悪意でやっているのではない。戦場に出れば今よりもっと過酷な状況が待っている。そこで折れてしまった者に待っているのは "死" そうならない為に課している過酷な訓練だった。
ショーは「なるほど」と一言呟き曹長を部隊に戻した。
待ちわびた武器
ついに連隊に武器が届く。57口径エンフィールド・マスケット銃。「世界一の銃」だと黒人たちは喜び、銃を使って遊び、撃たれた振りをしては倒れ、皆はしゃぎまくる。
それを見てショーは危惧を募らせる。本当に実戦が始まったら多くの者が死ぬ。
もっと危機感を植え付け鍛え上げなければ。
黒人たちが浮かれた雰囲気の中、早速マスケット銃を使った訓練が開始される。
シャーツは遠くの瓶に何度も命中させる腕前を披露し、部隊の中で賭けが始まる。教えるフォーブス少佐もご満悦のようだった。
しかしそこにそれを見ていた指揮官のショーが現れる。
シャーツに前へ出ろと命じ「見事な腕前だ」「しかし人を撃った事はあるか?」と訊ねる。
シャーツに直ぐ様射撃を命じ、彼のすぐ横でリボルバーを撃ちながら「急げ!」「もっと急げ!」とプレッシャーを掛け続ける。
シャーツは恐れ慄き遂には射撃を止めてしまう。そう、実戦では銃弾が飛び交うなか相手に命中させなければならないのだ。名手なら1分間に3発放てる。
恐怖で動けないシャーツ。
そしてそのショーのやり方にフォーブス少佐は不服そうな態度を取る。しかしショーは彼に
「もっと訓練を徹底しろ」
とだけ言い残しその場を去った。
フォーブス少佐の不満
翌日、フォーブスはショーに対して友人のトーマスや兵士達をもっと人間らしく扱えと不満をぶつける。「トーマスは友人だぞ?」と詰め寄る
ショーは返す
「訓練がたりない。戦場へ出るんだぞ?実戦に備えさせてる。それが任務だ」「彼等は命の危険を犯し自由を捨てて参加した。僕も喜んで自由を捨てる覚悟だ。必要なら命も。君も同じだろ?」
お坊ちゃまだと思われているショーだったが、彼の覚悟は結成当時から出来ていたのだ。兵士達と死を共にする覚悟。
むしろその準備が出来ていなかったのはフォーブスの方だった。まだそれが理解できないフォーブスは納得出来ない様子だった。
繰り返される行進訓練の理由
ショーや曹長が黒人たちに厳しい行進訓練を続けさせるのは訳があった。
当時の歩兵の戦闘は今からでは考えられないが砲撃や銃弾が飛び交う中、兵士が横一列になって敵部隊に近付くまで"歩いて"行進が行われる。そして近づいてから突撃が始まるのだ。
槍や剣を使っていた時代の名残なのか、度胸試しなのか、何なのかは分からないが彼等は例え隣の兵士が銃弾に命中して倒れようと、砲弾で仲間がふっ飛ばされようと、命令があるまでは横一列で行進し続けなければならない。
根性?いやもっと次元を越えた何かが無ければすぐに逃げ出してしまうような戦闘方法だ。並大抵の訓練では補えない。過酷な訓練を課す事で精神面を鍛え上げる意味合いも大きいのだろう。
そしてどんな状況でも指揮を乱さない部隊こそが勝利を掴める時代だった。
それを踏まえるとフォーブス少佐の考えは甘いと言うざるを得ない。
しかし彼はショーに無言でそこを立ち去るのだった。
へっぽこトーマスの覚悟
銃剣の訓練を受ける兵士達。しかし"へっぴり腰"なトーマスは鬼曹長の目に止まり、「俺を刺してみろ」と一人無理やり命じられる。
彼は必至に何度も曹長を攻撃するが、逆に銃を奪われついには倒されてしまう。
銃を突きつけられ泣き出すトーマス。彼のストレスは限界だった。
元来、戦いより本が好きな青年。およそ戦闘には向かない人種なのだ。
そしてついに幼馴染みであり連隊長のショーに兵士達の目の前で助けを求めてしまう。
「もう限界だ。君と二人で話をさせてくれ、、、」
しかし連隊長のショーは毅然とした態度で答える
「兵卒が指揮官に話をしたい場合は、まずその許可を得ろ。分かったな?」
トーマスは泣き震えながらショーに敬礼をし「分かりました」と答えるのが精一杯だった。
数日経った12日25日。世間はクリスマス。
だが部隊はいつも通り厳しい訓練を行い夜を迎えていた。
雪がちらつく中、連隊長のショーは兵士達を見て回る。
そんな時、トーマスはショーを見つける。あの泣き出して助けを求めた日以来だ。
ショーもそれに気づき、二人の間で気まずい雰囲気が流れる。
しかし先に話しかけたのは許可を得ろと言われていたトーマスからだった。
「君に一言伝えたい」
「メリー・クリスマス。ロバート」
トーマスはニッコリと笑いながら嬉しそうに彼にそう伝えた。その吹っ切れた表情にあの日泣いていたトーマスはもう居なかった。自分の甘さや過ちに気付いたようだ。
ショーも「メリー・クリスマス。トーマス」とニッコリ答え、一瞬だけ二人が親友同士の姿に戻る。凄く良いシーンだ。
トーマスは"今まですまなかった"と言いたげな表情でコクリと頷きそこを立ち去っていった。
配給されない靴
部隊の過酷さは何も訓練だけではない。要請してもなかなか配給されない物資や軍服、そして何よりも靴を配給されない事が彼等を苦しめた。
靴下も履かない硬い革靴で訓練を続ける兵士達の足は豆だらけ。豆が破れ血だらけの足の状態で訓練を続けていた。
いつになっても靴が届かない事を疑問に思っていたショーは、ある日補給係将校達と食事をする。
そして配給されない理由を彼等から直接知る。
「黒人たちが毎日ごっそり脱走してるって?」
勿論デマだ。一人も脱落者は居ない。
卑しい笑みを浮かべ補給将校は続ける。
「三度の飯と頭の上に屋根があるからだよ。実戦に駆り出される事もない」
「靴は不足しているのだ。例え入荷しても前線へ出る部隊が優先される。分かってくれるかね?」
トリップが脱走した理由
そんなある日トリップ(デンゼル・ワシントン)が脱走した所を見付かり、味方に捕まる事件が起きる。
彼は見せしめとして全軍の前で鞭打ちの刑をうけるのだった。
ショーが曹長に命じ、鞭打ちが始まる。しかし既に彼の背中は奴隷時代に受け続けた無数の鞭打ちの傷跡が見るも無残に残っている。
一瞬ためらうショーだったが「続けろ」と曹長に命じるしか無かった。
トリップは毅然とした態度で鞭打ちを受け、その涙の理由は誰にも分からなかった。
(実際の演技でデンゼル・ワシントンは鞭打ちを受けながら、黒人達が受けた屈辱に思いを馳せ、勝手に涙が出てしまったそうです。)
その夜、悩んでいたショーは部隊の父親的存在のローリンズ(モーガン・フリーマン)に話しかける。
「今朝の出来事。できれば兵士の様子や考えを教えて欲しい」
ローリンズは短く答えた
「靴を」
「兵士達に靴が必要です。トリップも靴が欲しくて脱走したのです」
「彼も戦いたいと強く思っています。我々の誰よりも」
鞭打ちが終わり死んだように横になっているトリップの靴を脱がせ、足の状態に驚愕するショー。兵士達の足は血だらけで見るも無残な状態になっていた。
補給将校を懲らしめろ
翌朝、ショーはローリンズ以下黒人の兵士を数人連れて補給将校の兵舎に乗り込む。
兵舎の入り口の前で誰も通さんと言わんばかりに腕組みするローリンズ達。
室内では相変わらず話を"濁そう"とする将校達についにショーはキレた。
「大佐に逆らうのか?薄汚い野郎め!」
「貴様のおかげで700人の兵士が裸足なんだぞ?何様のつもりだ!」
「すぐに600足の靴と1200足の靴下を用意しろ!」
そして”交渉”を終え部屋から出てきたショー。ローリンズ達に"成功したぞ"とニヤリと微笑みかけるのだった。
減給と軍服と
やっと靴下と靴を配給され歓喜する連隊だったが、陸軍省からある悲痛な通告が届く。
月13ドルと約束されていた給与を黒人連隊であるという理由で10ドルに下げるという内容だった。
それでも給与を受け取ろうとする仲間達にトリップが怒る
「お前らにプライドはないのか?弾に当たって死ぬのは白人も黒人も同じだぜ!?」
「リンカーンって野郎は汚い事しやがる!」
徐々にトリップに感化される黒人たち。ついに彼等はこぞって給与が貰える紙を破り捨て始める。
そしてそれをずっと見守っていた連隊長のショー。空に一発銃弾を放ち兵士達を黙らせる。
暫しの沈黙の後、ショーの行動は黒人達を驚かせた。
「君らがそうするのなら、、、我々もこうする」
ショーは自らも給与を受け取る用紙を兵士達の前で破り捨てる。
それを見たローリンズは「大佐は味方だぞ!」と叫び、黒人達は皆歓喜する。隊と将官がやっと一体になった瞬間だった。
そしてそんな彼等についに待望の軍服が届く。兵士達の士気は更に上がりしばしその大きな歓声は止まなかった
聖者の行進
ついに過酷な訓練が終り、銃と軍服を身に付けた兵士達が町の中を行進する。合衆国の旗を振り歓迎する住民たち。
そしてその姿をショーの両親や黒人達の家族が側で見守る。
ある者は喜び、ある者は泣き、またある者は誇らしげに笑いそれぞれの家族がそれぞれの兵士達を万感の思いで見守った。
映画の中でも良いシーンの一つです。
帰って来られる保証などない。しかしなんという凛々しい姿。鍛え上げられた部隊は貧しさや奴隷出身など関係無かった。
"鬼曹長"ことマイケル曹長も敬礼をし、誇らしげに見守る。もう彼等にしてあげられる事はない。ここでサヨナラなのだ。
出来る事はただ一つ。厳しい訓練が成果を生み、彼等が無事に帰ってくるのを祈るだけ。
そしてその日、ローリンズはこれまでの部隊への功績を認められ"曹長"に任命される。
第54歩兵連隊の初陣は近い。
不本意な作戦
1863年6月9日
連隊はサウスカロライナ州のビューフォートに到着する。
そこで目にしたのは同じように軍服を身に着けた黒人兵士達。現地で徴収された部隊だった。
それを指揮する旅団長のモンゴメリー大佐。階級はショーと同じだが旅団長のモンゴメリーは上官に当たる。
彼も奴隷解放論者だがショーとは黒人に対する考え方が全く異なっていた。
1863年6月11日
モンゴメリーの部隊とショーの中隊がダリエンに到着する。54連隊にとって初めての作戦参加だ。
「敵の姿はありません。女だけです」とショーに報告する曹長になったローリンズ。
しかしそれを聞いたモンゴメリー大佐の命令に54連隊は耳を疑った。
「いいぞ皆聞いたか?乗り込もう!」
嬉々として民家に押し入るモンゴメリーの黒人兵達。訓練された54連隊とは違い、彼等に規律という言葉は無かった。
モンゴメリー「こんな奴らを戦場に出せるか?」とショーに尋ねる。ショーは黙って俯くしかなかった。
銃弾を民家に放ち鶏や家財を盗み喜ぶ兵士達。家財を盗まれまいと抵抗する女性に手を挙げる兵士。
「白人の女性はよせ」
命令を聞かない兵士を撃つモンゴメリー。彼の兵士に対する扱いは奴隷と何ら差は無かった。
住民の女性が叫ぶ「なんて酷いことを!何が黒人連隊よ!」
それを聞いた54連隊の表情は皆強張っていた。
そして追い打ちを掛けるように民家に火を着けろとモンゴメリーはショーの部隊に命令する。
自分たちで強盗した挙句に火を着けろと命令されるショー
一度は拒否するも、上官の命令は絶対。連隊を取り上げると脅されればその命令に従うしかない。
今までの苦労をこんな所で水の泡にするわけには行かない。ショーは悲痛な思いで部隊に命令するしかなかった。
「第2小隊第1分隊。松明を準備し町を焼き払え」
ショーの命令に忠実に従う部隊。
実際には焦土作戦の一貫なのだが、こんな事をするために兵士になった訳ではない。
こんな事の為に今まで訓練を積んで足を血だらけにしてきたわけじゃない。
それともそもそもそれが甘い考えなのか。しかしこれが軍隊だという事だった。
燃え盛る集落をショーはいつまでもずっと見つめていた。
溜まる鬱憤と過酷な肉体労働
その後のショーの連隊に待ち受けていたのは前線ではなく過酷な肉体労働だった。木を切り運ぶ。そんな日が続く内に部隊の士気は下がる一方だった。あの戦闘訓練はムダだったと思い始める兵も居た。
鬱憤を溜め込む兵たちに揉め事が起こる。前線から退却してきたボロボロの白人の部隊にトリップが"ちょっかい"を出したのだ。
「おいどうしたもっと元気を出せ!」「俺たち54連隊の出番が来たら代わりに戦ってやるよ」
「なんだと黒人?」一人の白人の兵士が足を止めトリップに食ってかかる。トーマスが止めるがトリップは言う事を聞かない。
「良いことを教えてやる。この戦争にはやいとこケリをつけたいかね?」「来た道を戻って俺達と一緒に戦うんだよ」
白人「死にたいのか?」
トリップ「俺達が行きゃ死ぬのは敵さ」
喧嘩寸前の所でローリンズ曹長が現れる。しかしそのローリンズに対して更に野次が飛ぶ
「黒人が階級章を着けてやがるぜ」
ローリンズも黙ってはいない。「俺は上官だぞ。口を慎め伍長」
「笑わせるな!」
トリップが殴りかかりそうになったその瞬間、フォーブス少佐が馬に乗って現れやっと揉め事は収まった。
部隊の鬱憤は既に破裂寸前にまで達していた。
人間として
そんな日の夜、トーマスは歩哨の役目だった。鏡を見て身だしなみを整えるトーマス。トーマスらしい行動なのだが、それが気に障ったのか"減らず口のトリップ"が彼を侮辱する。
トリップ「ひとつ言おう。白人の様に話し行進して白人と同じ軍服を着ても、俺達は青い衣装を着せられた醜いチンパンジーなのさ」
チンパンジーの真似をしてトーマスを煽るトリップ。彼等が喧嘩を始めそうな瞬間、ローリンズ軍曹が割って止めに入る。胸ぐらを掴まれるトリップ
ローリンズ「いい加減にしろ!」
トリップ「手を離せ!黒人!」
ローリンズ「黙ってろ!」
トリップ「胸にリボンをくっつけりゃ、白人気取りで人をこづくのか?」「貴様は白人の犬さ!」
ローリンズが最近曹長に昇格したのを白人の犬だと侮辱する。そしてローリンズはトリップの頬を思いっ切り引っ叩いた。
ローリンズ「じゃあお前は?ムチでこき使われた恨みを晴らしたいのか。死ぬよりマシだろう。」
「白人はこの戦争で何千人も死んでる。お前や俺の為にな」
「俺は墓を掘ったよ。そして神に誓った”俺達も戦います”と」
「その時は近づいている。人間として戦う時だ。人間として!」
暫しの沈黙が流れる。
ローリンズ「”黒人”だと?黒人は貴様だけだ。悪態つきの愚かな黒人。それがお前だ」
「人間として」
ローリンズの言葉は重かった。黒人だからという理由で誰もが虐げられてきた人生。
血と涙と屈辱の人生。しかし今度こそは人間として生きられる。自分たちにとってこれは最後かもしれない。
しかしそれでも人間として生きたかった。
トリップは一言も言い返せなかった。
ローリンズは兵士達に持ち場に戻れと命令しその場を去り、一人トリップがポツンと残された。
将軍との駆け引き
いつになっても前線に出られないショーは一計を案じた。その日フォーブス少佐を連れ、ハーカー将軍とモンゴメリー大佐の元を訪れる。
ハーカー将軍とモンゴメリー大佐の二人は民間人から略奪した物資を以前から横流ししているのだ。ソレをネタに出兵の許可を引き出そうという作戦だ。
陸軍省に報告すると脅されたハーカー将軍は顔色を変え、ついに第54歩兵連隊は前線に行く事を許される。
そしていよいよ彼等の本当の初陣が始まる。
初陣
1863年7月 サウスカロライナ州ジェームズ島。第54連隊はついに南軍と激突する。敵の騎馬隊が彼等に向けて突進してくる。
指揮官達の指示で銃を構え騎馬隊を待ち受ける黒人兵士達。
「発砲用意!」
「撃て!」
ショーの号令で兵士達の銃は一斉に火を放ち、敵の騎馬隊はバタバタと倒れていく。3連射の後、南軍は撤退していくのだった。
初陣を勝利で飾った54連隊の兵士達。それぞれが帽子を掲げて歓喜に湧く。トリップも嬉しそうだ。
しかし曹長のローリンズが異変に気付く。撤退したと思われた彼等は斥候に過ぎなかった。霧の中、本隊の歩兵部隊が姿を現す。
「来たぞ!」
ローリンズが叫ぶ。
10数メートルの位置までお互いの部隊同士が近づき、射撃戦が始まる。南軍の斉射で次々に倒れる黒人兵士達。更に歩兵部隊は近づきもう目の前だ。
リロードし射撃しつつ前進する南軍。トーマスやシャーツの隣の兵が倒れる。数メートルまでお互いが近づき撃ち合う兵士達。そしてついに南軍は突撃してきた。
「突っ込め!」
ショーの号令で54連隊も突撃を開始する。銃と銃、体と体がぶつかり合う。混戦状態だ。
トリップは銃で殴り南軍の兵士を次々となぎ倒す。ショーやフォーブスも至近距離からリボルバーで応戦する。
トーマスは流れ弾が腕に当たり倒れ込んでしまう。
シャーツは得意の射撃で狙撃する。そのリロードする間に突撃してくる敵兵士。
しかし間一髪で間に合いシャーツは見事撃ち倒した。
曹長のローリンズも銃で殴り銃剣で突き刺しなぎ倒していった。
敵兵士と揉み合いになったトリップが倒れ込む。そのトリップを後ろから狙う別の兵士。
危ない!
と思った瞬間、その兵士を銃剣で突き刺しトリップを救ったのはあの"へっぽこトーマス"だった。
それぞれが活躍し、徐々に押し返し始める54連隊。
ショーの号令で斉射を繰り返し、ついに南軍の本隊は撤退していくのだった。しかしその戦場には多くの南軍や黒人兵士達の死体が横たわり戦闘の激しさを物語っていた。
負傷したトーマスは故郷に帰れとショーに即される。
「ロバート約束してくれ。僕を送り返さないと。約束してくれ!」
トーマスはショーに嘆願し部隊に残った。完全に一人前の兵士になったのだ。
ワグナー要塞
1863年7月18日
狭い島の上に造られたワグナー要塞。北軍はこの要害を攻略しないことにはチャールストン港へ進行することは困難だった。
大砲と砂壁と海岸と湿地に囲まれ正に自然の要塞。しかも攻略にはその狭さから1個連隊づつしか投入出来ない。
当然先頭の部隊には多くの犠牲が払われる。前日に北軍からの艦砲射撃が行われたが、実際の南軍の被害は数名という有様だった。
その先陣を不眠不休のショーは申し出る。
「休養より戦いです。士気は高く精神力は強靭です。二日前にも目覚ましい戦闘を。お見せしたかった。」
「準備は出来ています。いつでも命令を」
虐げられた黒人の為、自由の為、未だ奴隷として捕らわれている家族の為、一緒に戦う仲間の為、そして人間としての誇りの為、ついに第54マサチューセッツ歩兵連隊の最も過酷な戦闘が始まる。
白人と黒人
翌朝、先陣を切る為準備を整え54連隊は整然と行進しながら前線へ向かった。
その両脇で見守る白人の兵士達。
その中に先日トリップ達と揉め遺恨を残す伍長等も居た。そしてトリップと目が合ったその瞬間。
「頑張れよ!」
伍長は帽子を高く掲げ第54連隊を鼓舞する。すると他の白人兵達も一斉に帽子を掲げ全員が熱い激励を送った。すごく良いシーンだ。こういうシーンがこの映画は多い。
「弾に当たって死ぬのは白人も黒人も同じだ」トリップの言葉がそれを証明する。
生死を前にして彼等に人種の垣根は無かった。
要塞で会おう
ワグナー要塞を目の前に整列する54連隊。
ショーが連隊旗を持つ兵士を指刺す。
「彼が倒れたら誰が旗手を務める?」
連隊旗はその連隊の命とも言える存在。そして当然その旗手は目立ち一番に狙われる。
するとトーマスが一歩前に歩み出る
「お任せを」
フォーブス少佐が驚きの表情で見つめる。あの親友のトーマスがこんなに成長したのかと言いたそうだ。
曹長のローリンズは嬉しそうに笑った。
ショーもニッコリと笑い「要塞で会おう。トーマス」
と彼に言葉を掛けた。
砂塵を駆け抜けろ
「突撃用意!」
「前進!」
要塞からその様子を眺める南軍。全員が配置に着く。海岸を前進する54連隊は要塞からの格好の的なのだ。大砲から砲弾が発射される。
ショーを先頭に「突撃!」の号令の元、部隊は一気に走り出した。
幾つも配置された大砲の前を"横切る"54連隊。砲弾で仲間が吹き飛び、破片で負傷し次々と倒れていく。被害を出しつつも、なんとか砂丘までたどり着く。
激しい砲弾が降り注ぐ中、夜までそこに身を隠す。夜陰に乗じて攻撃を仕掛ける作戦だ。
それを手ぐすね引いて待つ南軍。
そしてついに夜になりショーの「突撃!」の合図で一気に要塞に突っ込む。
砂を壁にし、マスケット銃で狙い撃ちする南軍。何の遮蔽物もない54連隊は次々に倒れる。
砂浜を越え要塞まで辿り着いたと思った場所は「掘」が用意され連隊の進軍を阻む。
その進軍が止まった所に上から容赦ない悪夢のような斉射が続く。
例え死んでも
掘に配置された遮蔽物と海水と坂に苦戦する54連隊。
進軍ままならず、上方からの攻撃に多くの兵士を失っていた。大砲も目の前に配置され至近距離から狙い撃ちされていく。
このままでは全滅してしまう。
ショーはその状況をなんとか打開しようとする。
味方を鼓舞するためにあえて彼は旗手と共に二人で砂の坂を駆け登るのだ。
しかし旗手は撃たれ倒れてしまう。一人残ったショーはそれでも前進を止めなかった。
「続け!54連隊!」
そう言い放った瞬間ショーの腹部に銃弾が突き刺さる。
一度は倒れ込むショー。しかしそれでもまた立ち上がり坂を駆け登り始める。
「ロバート!!」
フォーブスが叫ぶ。
そんな静止も虚しく非情にもショーの体に更に幾つも銃弾が撃ち込まれてしまう。
そしてついに彼は力尽き、倒れ、とうとう動かなくなってしまった。
それを目の前で目撃してしまったローリンズ、トーマス、シャーツ、トリップ。
トリップは放り出された連隊旗を手に持ち
「続け!」と叫んだ。
しかしトリップの体にも銃弾が撃ち込まれ彼もまた尊い命を落としてしまう。
それを機に一気に坂を駆け登る54連隊。南軍の兵士との肉弾戦が始まる。
戦闘中に背中を刺され負傷するトーマス。
ショーを失った部隊はローリンズの号令で銃列を敷く。
数度斉射し、なんとか敵を突破し駆け抜ける。敵の指揮官の居る場所までもうすぐだ。
フォーブスとローリンズが先頭に立ち、ついに彼等は要塞中心部へ肉薄する。
しかしそこで見た物は、、、
後日譚
戦闘シーンはここまででした。要塞中心部に肉薄した彼等は取り囲まれ、恐らく全員戦死したのでしょう。
翌朝、砂浜には54連隊の多くの遺体が転がっていました。
未だワグナー要塞には南軍の旗が掲げられその無事を象徴します。
連隊やその後続の白人部隊の犠牲も虚しく遂には要塞攻略に至りませんでした。
ショーの遺体は南軍の手によって黒人兵達と一緒に葬られたそうです。
エンディングでは54連隊の被害は部隊の半数に上るとされるが定かではありません。
しかしこの武功が連邦議会に伝わり、議会は連邦軍有色人部隊の設立を正式に認可し、終戦まで18万人もの黒人が従軍したそうです。
そしてその後リンカーン大統領は、南北戦争における北軍の戦局を逆転しその勝利に多大な貢献があったと彼らを讃えたそうです。
あとがき
設立から要塞戦まで。数々の不平等や苦難を乗り越えた指揮官と兵士達。
兵士となった後も不平等に耐え抜いた黒人達。
「人間として生きたかった」
たったそれだけの理由で参加し戦死していく。
その過程をドラマチックに描いたこの作品。
戦争映画として素晴らしい作品です。
なかなか誰にでも勧められる戦争映画は少ない中、非情に希少であり、いつまでも覚えていたい作品。
「ああ今日はちょっと感動したいな」
そんな日にどうでしょう?
ずっと記憶に残る作品だったら良いなと思います。