映画「ヒトラーの忘れもの」地雷と共に散る少年兵の命(原題:Under Sandet 英題:Land of Mine)
ヒトラーの忘れもの
2015年公開
監督 マルティン・サンフィリート
キャスト ローランド・ムラ
ミゲル・ボー・フルスゴー
ルイス・ホフマン
ジョエル・バズマン
エーミール・ベルトン
オスカー・ベルトン
今日は悲しくて痛ましい映画の紹介です。苦手な人は読まない方が良いかも知れません。そのぐらい痛ましい作品です。全てと言っていい程ネタバレもしてます。
ドイツ・デンマーク合作映画です。
今年度のアカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされていました。第二次世界大戦後のデンマークであった実際の出来事を元に作られた作品です。
以前に高崎でもやっていたのですがチャンスを逃してやっと本日「深谷シネマ」にお邪魔して鑑賞しました。
単館の映画館は本当に数十年ぶりで、昔前橋のテアトル西友でSaving Private Ryanを観た以来かもしれません。1100円というリーズナブルで館内も綺麗でした。
実は今日、深谷駅まで散歩中に買ったチケットを風で飛ばして失くしてしまうというちょっとしたハプニングがあって、事情を話したら係員の人が快く一枚譲ってくれて1100円で鑑賞することが出来ました。感謝しかありません。この場で御礼を言わせて下さい。
さて映画の内容ですが、とても心が痛む作品でした。
"忘れもの"という邦題だけど英題のLand of Mine(地雷の地)というタイトルがしっくりくる。
予告編を見てもらうと分かるんですが
第二次世界大戦中にナチスは米英の上陸を妨げる目的でヨーロッパ西海岸に約200万個もの地雷を埋めるんです。
そして終戦後の1945年5月
デンマークが捕虜にしたナチスの少年兵達を集め、海岸に埋められたその地雷群を強制的に撤去させるという内容。
大人が勝手に始めた戦争の尻拭いを
子供が命を掛けて無理矢理やらされるんですね。
年端も行かぬ13歳~18歳の少年兵。
素人同然の少年兵達、まずは訓練から始まるわけですが
訓練はいきなり本物の地雷を使って行われます。
42型対戦車地雷の信管キャップを外し、中の信管を抜く。
危険なのでコンクリートに囲まれた部屋に一人ずつ入って行われる。
炸裂しても他に死人が出ない為の措置なのでしょう。
子供でなくても手が震えて当たり前。
幾人もの少年兵がこなす中、
劇中では訓練中に亡くなってしまった少年もいました。
ビックリしたし本当に心が痛んだ。
戦争は終わったのになぜこんな事をさせられなければならないのか。
しかも訓練で死んでいく。
自分や友人や兄弟に置き換えたら、これ程ムダな死はないと思う瞬間です。
その後は見渡す限り海と砂浜が広がる地雷原に連れて行かれ、まともな食事も与えられず
「終わったら国に帰してやる」という約束と、
故郷に帰れる希望だけを頼りに毎日毎日、来る日も来る日も地雷撤去をさせられます。
撤去作業に集められた11人。しかし最後には数人しか残りません。
匍匐前進をしながらの撤去。顔の目の前に地雷があるかもしれない。それだけで恐ろしい。
棒で地面を突き刺し、硬い物に当たったら丁寧に砂を避ける。
地雷が動かない様に信管キャップを左に回して外し、慎重に信管を抜く。
それの繰り返し。
数千発も埋まった海岸で毎日こんな事をさせられる。
地雷はいきなり炸裂します。勿論それは作業に失敗した少年兵の命が散った瞬間でもあります。
両腕を失い「お母さんに会いたい」と泣き叫ぶ少年。
少年兵達は何の前触れもなく"突然"命を落としていくんです。
戦争映画って弾丸や砲弾が飛び交うじゃないですか?
観客は誰かが死ぬ心構えをする時間を与えられるのですが
でもこの映画は違う
聞こえる音は波の音と会話が聞こえるぐらいなんですね。
そこに処理を誤った地雷がいきなり少年兵と共に爆発する。
ハート・ロッカーという映画があったけど、戦争ジャンキーが主人公の映画だったし、
あれはテロが行われる国の出来事で、心のどこかでしょうがないと思っていた自分がいたんですけど
この映画はまっさらな砂浜と抜ける様な青い空の元でいきなり地雷が炸裂する。
しかも亡くなるのが子供なので本当にショックで心の痛みが止まらない。
ナチスが埋めた地雷は何種類かあって、
S-Mineという跳躍対人地雷(地中から爆薬で1m辺りまで弾体が跳躍し空中で炸裂する殺傷能力が高い対人地雷)
42年型対戦車地雷
木製地雷と多様です。
その場で休む少年兵。
足元にあるのが木製地雷。
目の前にあるのが42型対戦車地雷です。
この中には撤去を遅らせる、難しくするために2つの地雷を上下に重ねて埋めてある場所もあるんですね。
上の地雷の信管を外し撤去しようと持ち上げたら銅線で繋がっている信管が動いて爆発するという二重の罠。
この地雷で双子の兄が亡くなってしまうんですが、残された弟も徐々にふさぎ込んでいって。
そして最後は仲間が静止する中、地雷原の上をわざと歩いて自殺してしまうんですね。
お兄さんに会いたかったのか、精神的に参ってしまったのか或いはその両方なのでしょう。
撤去された地雷群
実はもっと悲惨な事も起こるんですが湿舌に尽くしがたい内容です。
そして最終的に残った少年兵はたった4人だけでした。
しかも悲劇はそこでは終わらず
故郷に帰れる約束がまた別の海岸に無理矢理移送されてしまうんです。
そこで今度は地雷が埋まっている地図も無しで
無理矢理撤去をさせられそうになる。
約束が違うと怒ったデンマークの軍曹が彼等を助けてくれるんですが、その少年達と軍曹のその後は誰にも分かりません。
恐らく軍曹は軍法会議に掛けられてしまうでしょう。
それでも彼等を救いたかったんですね。
故郷に帰れる事を夢見て、命を落としたドイツの少年兵達。
ナチスは戦争中、ヨーロッパで蛮行を行ったわけですがそれでも彼等少年達に尻拭いさせる意味があったんでしょうか。
ナチスが少年を戦線に投入したから?
その通りでしょう。
しかし彼等が戦争を始めたわけではないはずです。
シンドラーのリスト(Schindler's List)ではナチスはユダヤ人を迫害し虐殺します。
彼等は敗戦濃厚になるや否や、強制収容所の閉鎖を受けて
証拠隠滅の為にユダヤ人の遺体を掘り起こし、ベルトコンベアで運び
ゴミを扱うかの様に捨てて燃やします。
あの映画も一生忘れられない作品ですが、この映画も自分にとって一生忘れられない悲しくて痛ましい作品になりました。
そういう意味で観て良かったなと思います。こういう事が過去にあった。
そんな時代に生まれなくて幸せなんだなと今日思いました。
イギリス主導で行われたこの行為。地雷撤去に参加したドイツ兵捕虜の数は約2000人。
その約半数が死亡、又は重症を負ったそうです。
少年達が祖国の都合で徴兵され、戦後また別の国の都合で命を掛けなければならない。
戦争は終わったのにどうして死ななければならなかったのか。
ジュネーブ条約の規定に反する行為も戦勝国だからまかり通るのか。
いずれにせよ戦争になれば命の使い道を選ぶのは国家で
投げ捨てるのはいつも国民という変わらない事実です。