映画ブログ~鑑賞記録~

鑑賞した映画の紹介や感想です

後悔してもしきれない。取り返しがつかない。絶対に乗り越えられない過去の出来事。

許されない過去 

あの日、俺は飲み仲間と深夜まで大声を出して馬鹿騒ぎしていた。

自宅にある狭い卓球場でその仲間達とクソ騒いでいると

女房が腕を組み眉間にシワを寄せて部屋に入ってきた。

少し度が過ぎたようだ。

 

「ねぇ!静かにしてよ!上で子供が寝てるの」

 

「ごめん、悪かった。」

 

「ねぇ、バカ連中を追い出して」

「分かったよ。帰ってもらう」

 

女房が部屋から出ていった後「おっかねえな(笑)」と俺が言うと仲間達は大笑いしていた。

しかしそこにまた女房が戻って来る。

 

「いい加減にして!クソ夜中よ!クソ身支度して出ていって!」

 

彼女は激怒し、それを聞いた皆は凍りついていた。

仲間は言う

「身支度?」

「女房は本気じゃない」

 

俺はその後、仲間を見送りまだ腕組みをして怒っている女房にジョークを飛ばしたが

彼女は一言

「くたばれ」

と俺に言い、ベッドに入っていった。

 

そのあと俺は2階に居る3人の子供達の様子を見に行き、寝ているのを確認すると

1階の暖炉に火を灯し、薪を焼べた。

2階の子供部屋は凍りつくように寒かったし、乾燥すると頭が痛くなるという女房の言葉を思い出したからだ。

そしてさっきまで騒いで興奮してたせいもあってか、目も冴えていたからソファーでTVを観ることにした。

しかしビールが無い。俺はコンビニに買いに行った。

かなり酔っていて運転する気になれず、徒歩だと片道20分掛かるが

ビール欲しさにトボトボ一人で歩いて買いに行った。

 

途中で暖炉にスクリーン*1をし忘れたかもしれないと気付いたが、酔っていた俺は

「まあ、いいや」

と思いそのままコンビニに向かった。

コンビニでツマミとビールを買い込むと、凍えるような外気の中で

早く暖まりたいという思いが帰宅の歩みを早めた。

 

しかしここで俺の人生は一転した。天国から地獄へと突然突き落とされた。

あの日から俺は死人になり、心は死んだまま生きる屍となった。

 

自宅周辺に近づくと、焦げ臭い匂いが周辺から立ち込め

スクリーンをし忘れた暖炉が頭をかすめた。

俺は走った。

しかしソレを目撃した俺の足は震え、心臓はこれ以上無いほど破裂しそうに鼓動し、全身から汗が一気に吹き出した。

我が家全体から激しい炎が舞い上がっていた。

 

すでに消防隊が駆けつけ、消火活動を行っていた。

俺は我が家が燃え盛るのをボーっと見つめていた。

現実とは思えなかった。

何か悪い夢でも見ていると思いたかった。しかし女房はそんな俺とは対象的に

 

「中に子供が居るのよ!」

 

と叫び、取り乱し、家に飛び込もうとしているのを消防隊員に取り押さえられていた。

 

翌朝、全焼した自宅から幼い娘2人の焼死体が見つかった。

死体袋に入れられ運ばれていく。

一番小さかった乳飲み子の息子は燃え尽きて灰になってしまったのか

遺体は見つからなかった。

 

俺はそのあと警察に連れて行かれ、全て事情を話し、犯罪性はないと判断されすぐに解放された。

おかしな話だ。子供3人殺していて解放だなんて。

女房は一生俺を許さないだろう。そして俺自身も一生許さないだろう。

俺は自殺を図った。

警官に後ろから近づき、素早くその銃を抜き取り、こめかみに銃口を当て引き金を引いた。

しかし銃は発砲しなかった。

安全装置が働いていたのか、そもそも弾が装填されていなかったのか。

二発目を撃とうとする前に警官達に取り押さえられた。

 

 

その日から俺は町中の噂になった。

俺を見る目は同情と軽蔑が混ざり、死んだ俺の心を棒で突っついた。

俺の名前を知らない住民は誰も居なかった。

顔を見れば「あの、◯◯か?」

と皆が噂した。

 

女房の心もその日から死んでしまった。

起こった現実と、原因が俺にあることをなじり

二人は生きながら死んでいて、ただ傷つけ合うだけの

夫婦ですらない生き物だった。

 

町には頼れる大好きな兄貴もいたが、俺は女房と別れ、その町を出た。

今は団地の便利屋として働き、ただ生きている。

 

あの日から俺の顔から笑顔は消えたがどうでも良かった。

人とは極力関わりたくないし、自分自身のことなどどうでも良かった。

アイスホッケーで言えば退場になってベンチで試合終了を待つだけ。

こんな人生生きる意味などあるのか。

子供達にしてしまった取り返しのつかない事をどう償えばいいのか?

死んであの世に行ったとして、どう謝ればいいのか?

誰も教えてくれない。

 

 

しかしそんな日々を送る俺に、ある日病院から一本の電話が入った。

それは元々、心臓に病気を抱えていた兄が倒れたという内容だった。

そしてその日から俺の人生は、ほんの少しづつ変化を始めた。

 

感想

さあ、今回はちょっと趣向を変えて主人公から見たあらすじで紹介してみました。

これは

マンチェスター・バイ・ザ・シー

という映画の主人公の過去です。

知っている人は途中で気付いた事でしょう。

あらすじの通り、彼は最初から一切笑わないんですね。

女性から、あからさまに言い寄られても眉一つ動かさず拒絶する。

それ程彼の心は壊れてしまっています。

そしてその電話を機にある出会いが二人を近づけ

主人公である、リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)を少しづつ変えて行きます。

彼はこの作品で主演男優賞を取りました。

女房役のミシェル・ウィリアムズも凄く良い演技です。助演女優賞あげたいぐらい。

そのシーンも見どころです。

 

「乗り越える事など出来ない。つらい」

 

そう主人公は語ります。

乗り越えられない過去。

取り返しがつかない過去。

心が壊れてしまうような過去。

そんな過去が題材となった映画です。

雰囲気的にはスリー・ビルボードに似てるかな。

脚本賞も取っている作品なのでシナリオや台詞回しも凄く良いです。

 

誰にでも思い出したくない過去があると思います。

時間とともにそれは薄まっていったり、運が良ければ昇華されたり

そうでなくても普通はただそれにをして生きていくだけです。

向き合ってもどうにもならない事もあります。

蓋をしているだけなので、何かの拍子に思い出して

また自身を苦しめる時もあるでしょう。

 

この映画は主人公のリー・チャンドラーという心が壊れてしまった主人公を

他人事として見守り、そして境遇を想像する。そんな映画です。

 

 

今回は記事タイトルに映画のタイトルを入れてないので、検索には一切引っかからないでしょう。

でもこの記事を読んで、あらすじを見て気になった方には是非勧めたい。

是非見て欲しい映画です。

そして

「ああ、観て良かったな」

と思って貰えて、記憶に残る作品になったら良いなと思い記事を書きました。

 


映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』予告編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:スクリーンとは暖炉の前に置く衝立のこと。薪が爆ぜたり、床に燃え落ちるのを防いでくれる

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」もう”彼”としか呼べない。イライザは自慰もSEXもする普通の女の子。R15(原題:The Shape of Water)

シェイプ・オブ・ウォーター

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2018年 3月1日公開

監督 ギレルモ・デル・トロ

キャスト サリー・ホーキンス

     マイケル・シャノン

     リチャード・ジェンキンス

     オクタヴィア・スペンサー

     ダグ・ジョーンズ

 

更新の日付変わっちゃいましたが行ってきました! 

映画の日なので人も多かったし女性客が多かったですね。

結構グロい映画なんですけど大丈夫だったのかな。

余計な心配はさておき、映画は面白かったです。

変わった映画だったなーというのが今回の印象です。

 

あらすじ

宇宙開発研究所に夜間の清掃員として働くイザベラ。

その研究所に南米はアマゾンから1体の生物が運び込まれる。

その”彼”は姿形は魚人、しかし二足歩行をし水中で泳ぎ

鋭い爪を持つ半魚人だった。

ソ連と冷戦下にあるアメリカはこの生物を研究し他国より優位に立とうと目論み

ホフストテラー博士とホイト元帥直属の警備員ストリックランドを送り込む。

ストリックランドに虐待される”彼”を目撃してしまうイライザ。

1週間後に迫った生体解剖を避けるため、”彼”を救おうと計画する。

果たしてイライザは”彼”を救えるのか?

そして生まれつつある絆は一体どんな結末を迎えるのか?

 

 

 

ここからネタバレ

 

 

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